Abstract |
「要旨」「目的」: 心不全バイオマーカーとして, ガイドラインにおいて, 欧米, わが国ともBNPやNT-proBNPがClassIで推奨されている. BNP, NT-proBNPは心不全診断・重症度評価・予後判定・治療評価判定などに有用であるが, 腎機能との関係は, 十分明らかになっていない. BNP, NT-proBNP分泌量とBNP, NT-proBNP濃度を推定糸球体濾過量(eGFR), 腎機能ステージ分類に従い比較検討した. 「対象と方法」: 臨床的に診断治療目的に必要と判断された慢性心疾患患者を対象に, 心臓カテーテル検査時に血行動態を測定し, 大動脈基部(AO), 冠動脈洞(CS)でBNP, NT-proBNP濃度を測定し, CS-AO濃度較差を分泌量とし, CKDの有無や, 推定糸球体濾過量(eGFR)区分によるCKDの重症度分類と比較検討した. 「結果」: BNP濃度については, 慢性心不全患者(n=366)を対象にeGFR<30mL/min/1.73m2や透析の患者は除外した. non-CKD患者(eGFR≧60mL/min/1.73m2)は229名で, eGFR<60mL/min/1.73m2のCKD患者は137名で対象患者の約40%がCKDであった. 2群間で左室拡張末期圧(LVEDP)などの血行動態には差異は認めず, (CS-AO)BNP濃度較差にも差異は認めなかったが, BNP濃度は有意にCKDで約2倍の高値であった. NT-proBNP濃度については, 慢性左室機能障害疾患(心不全合併を問わず, 透析も含めた)544名について, 腎機能ステージ分類に従い比較検討した. G1-G5ステージについて, それぞれG1: (n=44), eGFR≧90mL/min/1.73m2, G2: (n=221), 60≦eGFR<90mL/min/1.73m2, G3a: (n=132), 45≦eGFR<60mL/min/1.73m2, G3b: (n=77), 30≦eGFR<45mL/min/1.73m2, G4: (n=34), 15≦eGFR<30mL/min/1.73m2, G5: (n=36), eGFR<15mL/min/1.73m2, CKDは52%で, eGFR<30mL/min/1.73m2の高度低下-末期腎不全は13%であった. G1-G5の腎機能ステージ分類間で, 左室拡張末期圧(LVEDP)や左室駆出率(LVEF)に差異は認めなかった, さらには(CS-AO)NT-proBNP濃度較差にも差異は認めなかった. (CS-AO)NT-proBNP濃度較差において, G1-G5ステージ分類間に差異は認めなかったが, NT-proBNP血中濃度は, G2ステージにおいては, 437(中央値)pg/mL, G3aステージで, 592(中央値)pg/mL, G3bステージで, 800(中央値)pg/mL, G4ステージで, 2,552(中央値)pg/mL, G5ステージでは, 10,206(中央値)とpg/mL, CKDでは, NT-proBNP分泌量が同じでも有意な血中NT-proBNPの有意な上昇を認めた. G2ステージに比して, G3ステージでは約2倍と高値で, G4, G5の高度低下-末期腎不全のステージではそれぞれ約5倍, 約25倍と指数関数的に増加した. 「結語」: BNP, NT-proBNP濃度は心不全バイオマーカーであるが, 腎排泄低下によりCKD患者で上昇する心不全・腎不全バイオマーカーである. 従ってBNP, NT-proBNP濃度から心不全重症度(血行動態指標として評価)を判定する時に, 同時にeGFRもあわせて評価する必要がある. |