Abstract |
「Summary」 今回, アルツハイマー型認知症の患者に対して, 離床時間を拡大させることで行動・心理症状がどのように変化するのか, どのような効果をもたらすのかを明らかにすることを目的に本研究を行った. 倫理的配慮として, 本研究を行うにあたり, 研究の内容, 目的, 個人が特定されないように配慮し, 研究以外ではデータを使用しないこと, 研究に参加することで不利益が生じないこと, 参加を途中で中断できること, 中断しても不利益を被らないこと, 心身症状の悪化が出現した場合はそちらの対応を優先し, 研究は中止することなどを本人と家族に説明し, 書面で同意を得た. また, 医療法人社団天紀会こころのホスピタル町田倫理委員会の承諾を得た. なお, 本論文について発表者らに開示すべき利益相反関係にある企業などはない. 事例はA氏, 80歳代, アルツハイマー型認知症である. データ収集開始から1週間は昼食時の離床のみで下記(2)〜(6)のデータを収集し, その後3週間は下記(1)〜(5)のデータと夜間(6)のデータを収集した. データは(1)毎日3食食事時に1時間離床, (2)暴言の回数, (3)妄想による大声の回数, (4)食事拒否言動の有無, (5)食事摂取量, (6)睡眠時間を各勤務帯で温度表に記載した. 対象者が3週目に発熱したため, 3食食事時に1時間離床期間は21日間の予定のところ, 18日間で終了となった. データは(1)(4)(5)が18日間, (2)(3)(6)は21日間収集した. 食事摂取量は, 1日3食の最大量を100%としてそれぞれの期間の平均値を出したところ, 昼のみ離床期間は70.40%であった. 3食食事時に1時間離床した期間に入ると1週目85.15%, 2週目92.27%と摂取量の増加が確認できた. 食事拒否の回数は減少し, 3回すべての拒否はなくなった. 睡眠時間は昼のみ離床期間は5.42時間だったが, 3食食事時に1時間離床した3週目になると5.71時間になり, わずかではあるが増加した. 暴言や大声は, 昼のみ離床時の暴言は21回, 大声は30回であったが, 3食食事時に1時間離床した3週目の暴言は3回, 大声は3回とほぼ聞かれなくなった. 車イスの乗車時間については計画にそって実施した. 今回の結果から, (1)日中の離床時間拡大が生活リズムの正常化に影響し, 睡眠時間の拡大と精神状態の安定に影響をもたらしたのではないか. (2)なじみのあるスタッフとの交流の機会が増えたことは, そのこと自体がA氏の安心感につながり, 精神面の安定につながったのではないか. (3)A氏は入院時から約6か月間は臥床傾向であったが, 毎日車イスに移乗し, 活動量が増加したことで廃用症候群悪化の予防にもつながったのではないか. この3点が効果として考えられた. 今回の結果を踏まえ, これからもスタッフ間で話し合いながらかかわりの工夫を継続していきたい. |