Abstract |
「Summary」本研究は, 精神科看護師を対象に認知症看護ケアの難しさについて心理的測定方法論にもとづいた多項目尺度を開発し, 実態を明らかにする. 精神科救急入院料病棟を有する精神科病院に勤務する看護師を対象に, X年1月〜6月に無記名自記式質問紙調査を実施した. 認知症ケア実践内容に関する先行研究56件の記述から, 本研究で着眼する「難しさ」にかかる内容を抽出し, L.Guttmanらによって開発されたファセット理論を用いてマッピングセンテンスを構築することで認知症看護ケアの難しさ概念を網羅的にとらえた. マッピングセンテンスはケアの性質, 認知症ケアの内容・分類, 看護過程の段階の3ファセットから構築した. 112項目が選定され, (1) 認知症の理解・知識の難しさ : 5項目, (2) 認知症の認識の難しさ : 5項目, (3) 有効なコミュニケーションの難しさ : 15項目, (4) 日常生活活動・動作援助の難しさ (食事 : 9項目, 排泄 : 5項目, 整容・入浴 : 6項目, 移動 : 11項目, 睡眠 : 3項目) と5つの場面を選択し, 全61項目を作成した. リッカートスケール5件法を採用した. 信頼性と妥当性の検討のため, 各項目削除前後のα係数を算出し, プレテストを実施した. 特定の選択肢に回答が偏らず, 選択肢の適切な機能を確認し, フィードバックにもとづいて原案修正を行い, 調査項目を決定した. 収集したデータを用いて, 項目分析, 信頼性係数の算出など統計学的手法を用いて検証した. 精神科病棟に勤務する看護師295名に質問紙を配布し, 230部 (回収率 : 78.0%) のうち221部 (有効回答率 : 74.9%) を分析対象とした. 項目分析, 探索的因子分析により61項目8因子が抽出され, 確証的因子分析により仮説モデルの修正をくり返した. モデル適合度が確認され61項目4因子の尺度とし, 因子別α係数は0.885〜0.954の範囲であった. 所属病棟による群間比較では, 精神科救急・急性期病棟のほうがすべての尺度において平均値が高かった. 「整容・入浴」と「睡眠」では, 精神科救急・急性期病棟が有意に高かった. 尺度得点と基本属性において, 年齢, 看護師経験年数, 精神科看護経験年数, 認知症研修受講との関係性は認められなかった. 本尺度の信頼性, 妥当性はおおむね良好であった. 精神科看護師は, 認知症看護ケアの難しさにおいて知識やアセスメントを習得することのみならず, 患者個々にあわせて対応すること, 無力感や達成感のなさなどの感情を消化することに難しさを抱いていた. 今後は, 本尺度を通じて測定した困難と看護師のWell-beingやメンタルヘルスとの関連を検討し, 各困難の重みの実態を明確にしていくことが期待される. |