Abstract |
「要旨」多発性骨髄腫を背景として生じた大腿骨近位部骨折において複数回の手術を必要とした症例報告や, 手術を経て骨癒合が得られずに, 腫瘍用人工骨頭置換術への移行などを必要とした報告は筆者が渉猟し得た限りなく, 極めて稀な経過をたどった1例を経験したので, 報告する. 症例は70歳, 女性. 12年前に多発性骨髄腫の診断を受け, 自己末梢血幹細胞移植を行い, 以降維持化学療法継続中. ステロイド使用歴(化学療法時)あり. 転倒を契機に左大腿骨転子下病的骨折を受傷. 受傷3日目にStryker Gamma3 Longを用いた骨接合術を行った. 術後3か月目で骨癒合傾向がみられず, 超音波骨折治療器(LIPUS)を導入するも偽関節となった. 初回術後1年6か月目に誘引なく, 右大腿遠位部の痛みが出現し, 当科再診. 大腿骨単純X線像にて遠位横止めスクリューレベルでの骨折と, インプラント折損あり. 受傷7日目に偽関節部掻爬と, Stryker T2 alphaへのインプラント入れ替えを行った. 再手術後も偽関節部の骨癒合傾向がみられず, 再手術後6か月目に, 近位スクリュー部でのインプラント折損を生じたため, 受傷7日目に再度Stryker T2 alphaの入れ替えおよび, Zimmer Biomet NCB plateによる内固定の追加, 偽関節部への自家骨移植を行った. 再々手術後7か月目, 再度近位スクリュー部でのネイル折損を生じたため, 偽関節部の骨癒合は困難と判断. 腫瘍用人工骨頭へのコンバージョンを行うも, 遠位偽関節部での再骨折を生じたため, 近位部のスクリュー, ケーブルを追加し, 現在に至る. 本症例では, 初回骨折を受傷する以前(3年前)に, 予防的放射線照射が転子下の転移巣に対して行われており, 同部位での骨の生物学的活性が著しく低下していた可能性があったと思われ, 放射線治療歴の存在を考慮したうえで手術戦略を検討することが重要と考えた. |