Abstract |
「要旨」【背景】本邦における超高齢者(90歳以上)の大腿骨近位部骨折は増加傾向にあり, その治療とリハビリテーションは重要な課題となっている. 特に, 術後の歩行能力の再獲得は患者の生活の質に直結するため, その影響を与える因子を明らかにすることは臨床的意義が大きい. 【目的】超高齢者の大腿骨近位部骨折患者における術後1年の歩行能力およびそれに関連する因子について明らかにすること. 【研究デザイン】過去起点コホート研究. 【設定】市中病院1施設での後ろ向き研究. 【対象】2016年1月〜2023年12月に大腿骨近位部骨折に対する手術を受けた90歳以上の全患者. 対象者は術後12か月時点での歩行能力が確認でき, かつ術後12か月以内に死亡していない者. 【主要アウトカム】術後12か月での歩行可能例(W群)と歩行不可能例(U群)に分類した. 歩行器, 杖, または独歩が可能であったものを歩行可能例と定義した. 副次評価項目は年齢, 性別, 身長, 体重, body mass index(BMI), 骨折型, 受傷前の歩行の可否, 術前待機期間, 急性期病院の入院期間, 手術時間, 退院時cumulated ambulation score(CAS), 入院時ヘモグロビン, 入院時アルブミンとした. 単変量解析および多変量解析で調査し, 有意水準は0.05とした. 【結果】対象は185例で, W群90例(48.6%), U群95例(51.4%)であった. 平均年齢は92.8歳, 男性24例, 女性161例, 骨折型は頚部骨折が58例, 転子部骨折が127例であった. 統計学的に有意差を認めた項目は年齢(p=0.01), 身長(p=0.04), 骨折型(p=0.039, 転子部骨折でU群が多い), 受傷前の歩行の可否(p<0.0001), 退院時CAS(p<0.0001)であった. ROC解析の結果, 退院時CAS 6点が術後12か月での歩行可否のカットオフ値であった. 多変量解析では, 退院時CASが最も強い予測因子であることが示された(オッズ比165, 95%CI 20.1 - 1355, p<0.0001). 【結論】90歳以上の超高齢者大腿骨近位部骨折患者に対して手術を行う際, 退院または転院をする時点でCAS 6点(歩行器歩行が可能な状態)にすることで, 1年後の歩行能力の再獲得が得られやすいことが示唆された. |